第8章


 『

「どうして……どうしてっ!」
「どうしてもクソもないさ、志賀。俺は最初から全てを見通していた」
 その言葉に早枝は『嘘』を見る。ちぐはぐで噛み合わない言葉の形を。
「だから返しに来たのさ、侑が好きだった……お前からのプレゼント。この髪飾りは……彼女がいない今、お前が持っているべきだろう?」
「今……何て言ったの?」
 堀田の言葉に、深澄が過敏な反応を見せる。
「この髪飾りは……志賀隆徳が笈川侑に渡した物だと、そう言ったのさ。懐かしいだろう? お前が侑に優しくする事が出来た、数少ない思い出のカケラさ」
 呆然と志賀は手のうちにある、古ぼけた髪飾りを見る。
「何で……俺がこの髪飾りを侑に渡した事を知っている人間は、ただの一人もいるはずがないのに……」
 堀田は志賀に優しく微笑む。偽りの優しさ。彼は志賀をもっと深く暗いところに突き落とそうとしている。早枝にはそれが何故だか理解する事ができた。
「同じ、だからな」
「同じ?」
「そうだ。俺が秋庭史麻を、ああいったカタチでしか愛せなかったように。お前は笈川侑をどうしてもまともなカタチで愛せなかった。だから俺の口からあんな言葉が出てきたのさ。『今度は佐伯の家に石を投げつけてやろうって考えているんだろう? 志賀』ってな」
 堀田の言葉に志賀はうなだれた。まるで全てを受け入れたかのように。だけど早枝にはまだ、彼らが何を話しているのかすら分からなくて。
「それは……どういう事なの?」
 早枝が口にしようとした質問を、一瞬早く深澄が口にした。
「まだ分からないのか……」
 肩をすくめて堀田は言葉を続ける。
「志賀は侑と同じクラスだった。志賀は侑の事が好きで、侑は志賀の事が好きだった。だけど志賀は好きな女の子に素直に優しく出来るような人間じゃなかった。好きな女の子には意地悪をしたくなるっていう、あれさ。でもそれはいつだって好きの裏返しなのさ。佐伯に犬の首を送りつけたのだってそうさ。志賀本人は、あれで佐伯を傷付けたいとも思っていたし。そしてまた……佐伯に噛み付こうと、危害を加えようとしていた犬を殺した事で『佐伯が喜ばないかな』と心のどこかで期待をしていたのさ」
 志賀はうつむいて、もはや堀田の言葉を肯定も否定もしようとはしなかった。
「どうしてなんだろう、俺もそう思うよ。どうして俺たちはいつまでも大人になれないんだろうって。俺たちは人に優しくする事がどうしても出来ずにいる。たまに優しくしようと思えば、それは必ず間違った行動になってしまう……。志賀が笈川侑にしてしまった行動のようにね」
 佐伯は唾を飲み込む。その音がひどく大きく耳元で鳴ったような錯覚を感じる。彼女はもう、堀田の言葉を何一つ聞き漏らさないように神経を集中した。
「志賀はね、笈川侑の事が好きだったんだよ。それはもう狂おしいほどに。彼女なしの世界なんて想像もできないくらいに。だけど愛しているとは伝えられなかった。拒絶される事が怖かったから? 自分に自信が持てなかったから? 他人に優しくできる自分なんて想像できなかったから? そのどれもがきっと間違っていて、そのどれもがきっと正しかった。複雑にもつれる感情の中で、志賀はそういった想いにただ突き動かされて彼女を傷つけた。それ以外に思いつきはしなかったんだよ」軽く目を閉じ、搾り出すような小声で堀田は言葉を続けた。「笈川侑と……どうやって接点を持てばいいのかが」
「接点?」深澄は思わず声をあげる。「ただ、それだけのために……そんな事のために志賀は侑ちゃんを苛めていたの?」
「お前には分からないさ、深澄」
 それは酷薄な声。
「志賀にとっては嫌われようが憎まれようが、侑と繋がりさえ持てればそれで良かったのさ。声が聞ければ、視線が交われば、それだけで彼は嬉しかったのさ。傷つけ憎まれる事でようやく人との繋がりを実感する事ができる。それで相手が傷つく事に思い至る事もない。自分の事だけで一生懸命で、想像力に欠けている。それが宗教を捨て、物質的なものだけを現実的だと肯定してきた俺たちのたどり付いた場所なのさ。だから俺たちは歪みを共感する事ができる」
「堀田も……?」
「そうさ」深澄の言葉に頷いてみせる。「俺も想像力が欠如している人間だ。だから嫌ってくれて構わない。嫌ってくれれば少しは楽になる。自分が傷つけた罪を、人から傷つけられる事で自分勝手に傷を癒す。それが俺たちにとってのきっと……救いなのさ」
 歪んでいる……早枝は思う。共感はできない。でも……だからといって理解できない範囲の論理ではなかった。
 頭痛が早枝を襲う。頭蓋を釣り針で引っ張られるように激しい痛みが。
「ようやく……か?」
 堀田の呟き。それが耳に届いた時、早枝の頭の中で何かが弾けた。
「あ……」
「どうやら……理解したようだな」
 ぞわり。背筋に悪寒が走る。皮膚の下を数式が這いずりまわるような寒気。それらの全ては早枝が導き出した答えを全力で否定しようとしていた。
 だから早枝には分かった。その答えが堀田の言っていた答えと……同じものなのだと。
「志賀も同じように傷つけられる事を望んでいた……そうなんですね?」
 堀田は何も答えなかった。ただニヤリと笑ってみせる。
「接点を持ちたかった。何もない事より、嫌われても自分の事を意識してもらえる方が彼にとっては嬉しい事だった。だけど苦しかった。志賀は侑の事が好きだったから。だけど侑は志賀の事を嫌いも憎みもしなかった。咲坂さんが言うように、侑はとても優しい女の子だったから。人の気持ちを思いやれるような子だったから。だから志賀が自分の事を好きだと、侑は気づいてもいたのよ。そして時折……人の目がない所でだけ、志賀は侑に優しくする事ができた。そして侑は勘違いする。『こうして優しくしてくれる志賀の姿が本当の志賀の姿なんだ』って。そして彼女は志賀の苛めに耐える事を選択した。それが……彼女が犯した最大の間違いだった」
「どうして?」深澄が詰め寄るように早枝の前に歩み出る。「侑ちゃんが……侑ちゃんが何を間違えたと言うの?」
「志賀を傷つけなかったから。それが間違いだったんですよ。志賀は……それがどんなに自分勝手なものであろうとも……苦しんでいました。好きな人を傷つけずにはいられない自分に苦しんでいました。だけど侑は志賀を傷つけようとは考えませんでした。それが志賀をより深く傷つけ、傷つける痛みを忘れるために更に彼女を傷つける。そういう悪循環に志賀は陥ってしまったのです。そして行きついた先が……侑を追い詰める事になった、あの事件でした……」
「う……」
 志賀が低く唸るように声をあげる。早枝の予測が当たっているなら、これから彼女が話す内容は……彼にとって最も思い出したくない事のはずだった。
「でも……」
 誰にも聞こえないような小声で早枝は呟く。でも言わずにはいられない、と。志賀の取った行動は決して許されるものではないのだろうから。
「……侑の父親が犯罪を犯した時、咲坂さんが言っていた通り、侑は気丈に振舞っていたのでしょう。彼女と何の関わりもない、何一つ接点のない人間が一日中、彼女を責めたてる。そんな毎日に打ちのめされない人間なんて私には信じられません。だけど、それでも彼女は堪えていました。きっと彼女は信じていたのでしょう。人を、世界を、そして……志賀、貴方の事を。そう、貴方はその時だけは彼女に優しくするべきだった。それを、優しさを彼女は求めていた。だけど貴方は彼女が一番優しさを求めていた時に……」
「もう、もうやめてくれぇっ!」
「貴方は『正しい』人たちと一緒に……侑の家に石を投げつけたんですね?」

「TVのニュースで見た事があります」
 今度こそ立ちあがる気力もなく、打ちのめされ涙を流す志賀の姿を見下しながら早枝は言葉を続ける。
「犯罪を犯した人の家族を『善意の第三者』が罵るのを。私には分からないです。どうして彼らがそこまで自身の正しさを確信できるのか。罪とはその人……個人の罪であるはずです。血縁関係など何一つ関係がないはずです。なのに……っ!」
 千切れそうな早枝の声。彼女は思い出してしまった。父親のせいで自分が受けてきた、数々の迫害の事を。
「なのに……どうして貴方は彼らと一緒に侑を傷つけるような事をしたの!」
「俺だけが……俺だけが悪いのかよ! みんな……みんなやってたんだ、みんな自分が正しいんだって信じ切っていた。俺はただ、普通の人たちと同じように侑を裁いただけだ。どうして俺だけが責められるんだ!」
「……ッ!」
 早枝が腕を振り上げる。怒りに突き動かされて。だが、その腕が振り下ろされる直前……堀田は彼女の腕をつかんでいた。
「待てよ佐伯。お前だって同じ事だ。少なくとも侑の件に関しては、お前には志賀を責めるどんな理由もありはしない」
 そして堀田は志賀を一瞥すると言う。
「もう……お前に用はない。ここから去れ」
「なん……だって?」志賀はすがり付くような目で堀田を見る。「俺を……俺を責めないのか?」
「俺にお前を責めるどんな理由がある? それにな……お前はもう許されているんだ」
「……え?」
 降りてきた糸を目の前で断ち切られてしまったような目で志賀は見上げる。
「侑は死ぬ前の最後の電話で深澄にこう言ったんだ。『もし……もし深澄ちゃんが、私がいなくなる原因を作ったって思う人を見つけたとしても、責めないで欲しいの……。……今でも好きだから……本当は優しい人なんだって、ずっと思ってきたから』ってな。本人が責めないで欲しいと言うなら、この世界でもうお前を責められる人間はいないって事になる」
 堀田は震える志賀の肩に手を乗せる。
「……良かったな? お前は過去の罪から解き放たれた……もう、お前は自由なんだよ」
「自由?」
 志賀は唇を曲げる、笑うように。笑う以外の何もできなくなってしまったかのように。
「そう……自由。誰もが過去の君に干渉しない。傷つけも憎みもしない……そんな自由さ」

「……どういう事なんです?」
志賀が屋上から去り、舞台から退場したところで早枝は尋ねてみる。
「なにがだ?」
「最後に見せた……志賀の笑顔の理由ですよ」
 堀田は最後に思い出したように志賀と二言三言の会話を交わしていた。その内容が早枝には聞き取れなくて。
「ああ……」堀田は肩をすくめてみせる。「もう誰も侑の事であいつを裁こうとはしない……それが理解できたからだろう」
「それは……貴方がそういうふうに仕向けたんでしょう?」
「……気づいていたのか?」
 楽しげに喉を鳴らす堀田を見て、早枝は頷いてみせる。
「彼は傷つく事を望んでいました、憎まれる事を望んでいました。そうやって過去の罪を糾弾される事で……傷つきながら癒されようとしていたのですよね? だから貴方は……」
 陽射しが強くなる。遮るものがない屋上で、光は二人に惜しげもなく降り注ぎ……視界は白に染まる。
「彼から救いを奪うために、傷つける事を放棄した……そうですね?」
「……五十点だな」
「え?」
「それじゃあ、まだ半分だって言ったんだよ」
 堀田は指を鳴らす。まるで舞台を再び切り替えるかのように。
「言ったはずだぜ? 俺は歪みを糺すってな。だから俺は志賀を突き放した。誰も奴を責めない、傷つけもしない、そんな世界こそがこれからもずっと奴を責め続け、そして傷つけ続けるのさ。これ以上……誰も傷つけなくても、奴自身が奴をこれ以上なく傷つけ続けるんだよ」
 なんて歪んだ癒しの形……救われない事によってのみ救われる。私たちは袋小路の中にいる。そう、早枝は感じずにはいられなかった。
「だが……奴を救うためとはいえ、お前には……悪い事をしてしまったかも知れないな」
 堀田は早枝から視線を移す。その先には……打ちのめされ、ひざまずく深澄の姿があった。
「志賀が……? じゃあ……じゃあ侑ちゃんのためだと思って私がしてきた事は……」
 誰に語りかけるためでもない呟き。彼女は明かされた事実にひしがれていた。
「深澄……」
 堀田が深澄の前に立つ。それと同時に早枝は耳鳴りを感じる。
「これは……」
 早枝は知っていた、これは共振。堀田はイメージしようとしている。そしてそのイメージがどんな物であるかも、彼女は理解していた。
 優しげな瞳……彼はそれを深澄に向けていた。苦しみに溺れている深澄に、手を差し伸べようとしている。その手をイメージしようとしている。
 そして堀田の口から言葉が零れ落ちた。
「……なら……れよ……深澄」
 堀田の顔が驚愕に歪む。きっと私の顔も同じように歪んでいるのだろう、早枝は思う。
 それだけ堀田の言葉は意外なものだった。
「は……ははははははっ!」
 けたたましい笑い声を堀田はあげる。まるで泣き喚く子供のように。
 堀田は笑っているのだろうか? 泣いているのだろうか? 早枝には分からない。堀田は目を手で覆っている。彼女から見えるのはただ、苦しそうに歪めた口元だけ。
「そんな……そんなものを深澄は望むのか! お前も同じなのか!  いいだろう、なら……楔をくれてやるよ。汚泥にまみれた鋼のような束縛をな!」
堀田は言うと深澄の顔をつかみ、無理矢理に上に向ける。
「なぁ……深澄、お前ずっと俺の事を罵っていたよな、憎んでいたよな? 侑を殺したのは俺だって言い続けていたよな?」
 ビクッと肩が震える深澄。だが顔を上げようとはしない。彼女は堀田が何を言おうとしているのか気づいている。気づいて堪えようとしている。
「だけど……なあ聞いただろう? 俺は確かに罪を犯して生きてきた。殺されても文句が言えない相手だって大勢いるだろう。でも……侑を殺したのは、殺す原因を作ったのは志賀だ、俺じゃない。その件についてお前から責められる筋合いはない。つまり……お前はずっと同じ事をし続けてきたのさ。何も関係がないくせに侑を自分勝手に責め、傷つけた……『正しい』人たちと同じ行動を」
「あ……ああ……」
 いやいやをするように深澄はかぶりを振る。その頭を堀田は両手でガシッとつかんでみせた。
「聞けよ、お前は聞かなくちゃいけない。逃げる事は俺が許さない。俺はお前にそう言う事のできる権利を持っている」
そして堀田は先ほど口にした言葉をもう一度口にした。
「だから……もし罪をお前が感じているのなら……俺のモノになれよ、深澄」
「え?」
 ハッと顔を上げる深澄、その視界一杯に入ってくる。
 優位に立っている者だけが浮かべる事のできる、反発を感じずにはいられないような笑みを。
「償え、と言っているのさ深澄。俺が『許す』と言っても、お前自身が自分を許せなかったら意味がないからな。だから償えよ……俺のモノになるんだ。お前が自分を許せる時まで、お前は俺のために生きるんだよ!」
 堀田を見つめる深澄、その瞳にゆっくりと感情が浮かび上がってくるのを早枝は見る。
 でも……それは健全な感情なんかではまるでなくて。
「……卑怯よ」
 なじる口調で深澄は呟く。
「そうよ、卑怯よ! 何でそういう事を言うの? どれだけ……この罪の意識が消えるまで、どれだけの時間がかかるっていうの? どれだけの時間をあなたのために生きなくちゃいけないのよ!」
「知るかよ」冷酷な声で堀田は返す。「間違えたのはお前だ、深澄。俺は正当な謝罪を要求しているだけだぜ? 良かったじゃないか……侑と違って俺の方はまだ取り返しがきくんだぜ?」
 その言葉に、深澄は思い切り堀田の胸を突き飛ばした。
「信じられない……どうしてそんな事が言えるの? わたし……やっぱり堀田の事なんて嫌いよ! 大嫌いよ!」
 涙を流していないだけの泣き顔、そんな顔で深澄は堀田を見つめ続ける。
「借りは返すわ。相手がどうあれわたしが堀田を理不尽に責めたのは事実だから……。でも、それはあなたのためなんかじゃなくて、わたしのため。わたしがあなたに対する罪悪感を拭い去る事ができるようになったら……」
 その時、不意に風がやんだ。だから深澄の言葉は取り違える事ができないくらいハッキリと二人の耳に届く。
「その時は、あなたを深く傷つけてみせる……死すら甘やかなものに感じるほどの傷を。今度はなにも負い目なんて感じる事なく……」
「楽しみにしてるぜ?」
 堀田は本当に楽しそうだった。
「だけど、お前にはそこまでできないさ。俺をそこまで深く傷つけられるのは……この世界に一人しかいない。俺は待ってるのさ……そいつが俺を……」
 言って堀田は親指で自分の首を掻き切ってみせる真似をする。
「殺してくれるのを、な」

 深澄はそれ以上、何一つ口にしようとはしなかった。彼女はただ堀田に一瞥をくれると黙って階段を降りていった。
 それを見て堀田は肩をすくめると、後に続いて階段を降りていく。
「あ……待って!」
早枝は堀田の後を追う。人気のない校舎で二人の足音が妙に大きく響く。
「ねぇ……堀田君は、さっき志賀に何を聞いていたの?」
「知りたいか?」
 振り返りもせずに堀田は問い返す。
「知りたいなら教えてやるよ。俺は聞いたのさ、あいつらが受け取っていた予言メールの共通点をな」
「共通点? それが何か関係あるんですか?」
「佐伯には関係ない。関係があるのは……俺さ。だから聞いたんだ。それを知らないと……罠に向こうがかかってくれたかどうか、分からないからな」
「罠って……誰を陥れるための?」
「予言メールの送信者を、さ」
 堀田は言いながら靴を地面に二度軽やかに叩きつけてみせる。ひどく楽しげに。
「俺が志賀たちと連名で怪文書を作ったのには理由がある。俺のメールアドレスを不特定多数の人間に教えるのが、その理由だ。そうじゃなくちゃ、俺にメールを送ってこられないかも知れないしな」
「メールを堀田君に? どうして? 志賀たちを叩き潰してしまったから?」
「……そういう事にしておこうか。とにかくこうして下地はできた。予言メールの真偽を確かめる情報も手にした。後は……メールが届くのを待つだけさ」
 階段を降り、昇降口に向かう二人。
「それで……予言メールの真偽って、どうやって確認するんですか?」
「ああ……簡単さ。予言メールは7回送られてきたと言っていた。その7回の一通ごとに一文字ずつ文字が増やされていたのさ。最初は『堀』。次は『堀田』ってね……」
「え? それって……!」
「そう、最初から俺を目標にしていたのさ……」
 不意に携帯の着信音が鳴った。それは一度コールしてすぐに鳴り止む。
「来たか?」
 慌てて取り出す堀田。その姿は彼が犬の首を前にしたときと同じように感じられて。
「……来た、来たぜ。俺の望むモノがよ」
 そこには一通の新着メールが届いていた。
 件名は『Prophecy』……予言。
『堀田佳宏は明後日の日曜日、午後7時に校舎の屋上で死を迎えるだろう』
「歓迎してくれるようじゃないか……楽しみだね」
 だけど早枝は、そんな堀田の軽口に頷く事もできなかった。その予言の後に書かれた言葉。予言メールの真偽を確認するための鍵が、最後の八文字目を加え完成されていたのだ。
 即ち……『堀田佳宏ハ人殺シ』と。


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