第4章


 『きっと僕を憎むだろう』

 晴れた空から突き刺すように降り注ぐ光は、夏の訪れを告げるように強く、そして熱い物に変わりつつあった。それでも朝は涼しい風が通り抜け、早枝はその中を学校へと歩いていく。
 気持ちの良い朝だった。それはきっと誰にとっても。だけど……早枝は浮かない表情を浮かべている。彼女は堀田の言葉の意味が分からずにいたから。
 『侑が掲載されている学級名簿』の入手と『侑の自殺時に何か変わった出来事がなかったか』を調べる事。それが堀田が出した条件だった。早枝に対する何者かからの嫌がらせを無くす為の。
「でも……何でそんな事が、私に関わってくるんだろう……?」
 早枝は手を強く握る。溢れ出る悔しさを抑えるかのように。そう、彼女は悔しかった。堀田の事は認めている。彼が関係あると言うのなら、きっと関係あるのだろう。だから調べろと言われれば調べるのはやぶさかではない。
 でも、だからといって悔しさが消える訳ではなかった。早枝は人から悪意を向けられると、いつも我を忘れて反抗してしまう。それは悪意ばかり向けられてきた人生の中……彼女が相手の思考を読み、把握し、その上で敵の意見を叩き潰す事に自らの誇りを見出してきたからだ。
 それが今回に限っては、悪意がどこから向けられてきているのかも分からない。堀田が『それは悪意ではない』と言っても、それがじゃあ何であるのかも分からない。彼女は不透明な視界の中で、自分自身の行動がどういう意味を持つのか理解できないまま、ただ自分以外の人間の思惑に動かされるだけ。それは彼女の自尊心を深く傷つけるのに十分だった。
 自分には理解できない事も堀田なら理解できるのなら、早枝はそこに行きたかった。同じ目線で事実を把握したかった。切実に。
「でも……そのためには何を理解しなくてはいけないのだろう?」
 呟きは誰にも聞かれる事のないまま、雑踏のざわめきにかき消された。

 授業中、早枝はずっと堀田の方を伺うように見ていた。堀田の考えを理解しようとして。だけど、何も思い浮かびはしない。思考はただ上っ面をなぞっていくだけ。
 じっと堀田を見つめ続ける早枝。しかし、それが好意的なものであると推測する人間は一人もいなかっただろう。彼女の視線は射るように投げかけられ、そして突き刺すように一点から離れなかった。彼女は苛立っていたから。いつまでも袋小路の中で、堀田と同じ場所まで辿り着けない自分に。
 終業のベルが鳴る。クラスメイトが各々、教室から立ち去って行く。早枝は立ちあがる。とりあえず思考を止め、先へ進む事を彼女は選んだ。
 とりあえず、堀田の言う情報を入手しようと。そこから何か先へ進む道が見えてくるかも知れない、と。
 教室を出て行こうとする早枝。その視界の端に、堀田に声をかける曽根の姿が映った。

「よぉ堀田。今日は何を企んでいたんだ?」
「……随分な御挨拶だな」
 早枝が教室を出ていくのを、横目で見ながら堀田は言った。
「そうでもないと思うけどな。お前、今日はずっと授業中……考えにふけっていたじゃないか。僕は知ってるぜ。そういう時のお前は無表情そうな顔の下で、必ず何かを企んでいるのを。……楽しそうだったぜ?」
 頬杖を外し、軽く笑い飛ばすと堀田は立ちあがる。
「……気のせいだろ? 俺は何も企んじゃいないぜ。もしそう見えるとしたら……それは」机のわきにかけておいた鞄を手に取りながら言葉を続ける。「お前が俺をそういう目で見ているからさ、曽根。俺に何かを企んでいて欲しいって、な……」
「どうして僕がそんな事を考えなくちゃいけないんだ?」
「俺が知るかよ、そんな事」
 言いながら堀田は教室を出ようと足を進める。
「おう、浅葱。帰ろうぜ」
「あ、うん!」
 声をかけ、教室を出ていく二人を何も言わずに見送る曽根。その瞳は闇に閉ざされている。誰もが立ち去り、一人きりになった後……曽根は呟く。
「そうさ……お前は何を企んでいなくちゃいけない。お前は卑怯な奴だからだ。僕から光を奪ったのは……お前だ、お前であるはずなんだ」
 誰にも聞かれない声。それは空気に漂い、絡み付き、そしてすぐに消えた。

「いつも喧嘩してるみたいだけど……佳宏と曽根くんって、良く傍にいるよね。仲良しなの?」
「仲良しに見えるのなら、お前の目は節穴に決定だ」
「えー、なんで」
 穏やかな夕暮れが二人を包む。それは優しい時間。誰もが忘れかけていた、小さな小さな大切な事を思い出せるような。
「仲良しなんかじゃないさ……俺たちはただ、お互いに代わりになる人間を持っていないんだよ」
「それは……かけがえがないって事? 何か佳宏から聞く言葉にしては意外」
「かけがえがない、ね……。そうだな、そういう言い方もできるかも知れない。曽根は……曽根だけが、俺を本当の意味で傷つける事ができる人間だから」
 堀田は微笑んで言った。浅葱は理由もなく理解する。他の誰にも出来ないくらい、曽根に深く深く傷つけられる。それを彼が何よりも望んでいる事を。
「じゃあ……佳宏は? 佳宏は曽根くんにとって……どういう人間なの?」
「簡単さ」目を閉じて堀田は言う。「あいつにとって俺は……俺だけが、本当に憎む事のできる相手さ」
「健全じゃないね」言って浅葱はすぐに付け足す。「前から知ってたけどさ」
「言うね、お前も」
 目を細めて浅葱を見る堀田。浅葱はそういった堀田の表情が好きだった。見ているだけで胸が痛むほど。
「でも……お前も変な奴だよな。こんな健全じゃない会話をちゃんと信じてさ。普通は引くものなんじゃないのか?」
「このくらいで引いてたら、佳宏の友達はできないよ」
 いたずらっぽい笑みで、浅葱は返す。
「それに……わたしは佳宏の事を信じてるから。もし佳宏が自分の事を信じるなって言っても、わたしは信じるよ。それが……わたしにとって人を信じるっていう事だから」
 言いながら浅葱は思い出す。信じるというのが、自分にとって一体どんな事なのか。それを……考えるきっかけになった、とある事件の事を。

 わたしは可愛い女の子なんかではまるで無かった。小学校時代の自分を振り返り、浅葱は思う。彼女は人からの評価を常に気にし、愛想と拒絶を使い分けられる、そんな少女だった。
 小学校の時ほど、人間関係が奇妙に重なり、そして途切れている時期はない。好きと嫌いという感情から成り立つ人間関係は、感情の揺れ動きで簡単にその配置図を変えていく。まるで絶えず揺れ動く、マーブル模様のように。
 彼女はその中を、すいすいと泳ぐように……所属するコミュニティを変え続けていた。そして関係が途切れない程度に、それまでのコミュニティとも関係を保つ。そしてその計算高さを人には悟らせない。浅葱は天性の感覚だけで、そうした処世術を身につけていた。
 そして……そういった態度を好まない人間も確かに存在するのだった。
「ちょっと良いかな……堀田君」
 小学校5年生の、あれは秋だった。浅葱はクラスの前を通りかかり、そこでクラスの少女たちに堀田が呼び止められているのを目撃する。
「なんだ? 俺に何か用か?」
 堀田は肩にかけかけたランドセルを下ろし、振り返る。少女たちが気おされないように息を飲むのが浅葱には分かった。堀田は嫌われ者だったから。
 彼は大人びていた。一人でいる事が多く、そしてそれを気にしている様子を見せなかった。批判や非難に耳を貸さず、そして踏み込み過ぎてくる人間はためらわずに傷つけた。彼に気軽に声をかけられるのは、クラスで佐々木崇之くらいで。
「ちょっと、話があるの」
 だが……その事実を知っていても、少女たちは引くつもりはまるでなさそうだった。彼女たちはよほど腹に据えかねる事があるのだと、態度で語っていた。それを見て、浅葱は物陰に身を隠す。
 彼女たちが何を言い出すのか、薄々気づいたから。
「話? 良いぜ、言えよ。だけど余り時間は取れないぜ。俺はお前らが思っているほどには暇じゃないからな」
 好意がカケラも感じ取れない声。彼は孤立する事を恐れなかった、その頃から。
 少女たちは堀田の言葉に例外なくムッとした表情を浮かべる。
「じゃあ簡単に言うけど。堀田君と佐々木君の仲が良いのは前からだけど、ここ最近ずっと……貴方たちに泉本さんが付きまとってない?」
 付きまとっている、か。良い表現だと浅葱は思った。その表現は的確に彼女たちの敵意を表現している。
「別に付きまとったりはしてないぜ。ただ一緒にいるだけさ。あいつは、友達だからな」
「……それ、本気で言ってる?」
 むしろ哀れむような口調で少女の一人は言った。
「ああ本気さ、これ以上なく。奴らは例外さ、佐々木と泉本は馬鹿じゃないからな。話してて楽しい。少なくとも……友達と一緒にいる事を、付きまとっているなんて表現をするほどには馬鹿じゃない」
 敵意を煽るように、堀田は言い放った。
「なに……それ。私たちが馬鹿だとでも言いたいの?」
「言いたいんじゃなくて、言ってんだよ。気づけよ、そのくらい」
 年長者が諭すように彼は言う。少女たちは激昂するだろう、そう浅葱は確信する。
 だが、少女たちは意外にも喚き散らしたりはしなかった。
「馬鹿なのは……どっちかしらね?」
 余裕さえ感じ取れる言葉。
「……どういう事だ?」
「堀田君にとって泉本さんは友達かも知れない。でも、泉本さんにとっては……どうなのかしらね?」
 沈黙が降りる。浅葱は唾を飲み込もうとして、思い直す。その音が彼女たちにまで聞こえるような気がして。そんな静寂の中……堀田は問い返す。
「なんだよ……随分と勿体ぶった言い回しだな?」
「本気で気づいてないの? それとも気づいて惚けてるの?」
「だから、何がだよ。言ってみろよ」
 苛々した口調の堀田に、一瞬だけ言葉に詰まりながらも少女たちは言う。
「賭けても良いけど……泉本さんは、堀田君の事を友達だなんて思ってないよ」
「へぇ? どうしてまた、そんな風に考えるんだ?」
「貴方と一緒にいるのが、佐々木君だからよ」
 少女はキッパリと言い切った。確信があるのだろう。
 小学校時代に堀田と浅葱の共通の友人であった佐々木崇之。彼は顔立ちが整い、誰にでも分け隔てなく接し、そして裏表の無い少年だった。少年たちからは一目置かれ、少女たちからは距離を置いて憧れを向けられていた。
 少年たちは誰もが彼の肩を叩き、そして一緒に遊んだ。だけど少女たちの方はと言えば、そうした事はできなかった。小学生の頃、恋愛は冷やかしとからかいの対象でしかない。少なくとも男子にとっては完全にそうだった。だから少女たちは佐々木に好意を持っているのを悟られないよう、そっと遠くから見ていた。その視界の中にに割り込むように入り込んできた……その人物こそが浅葱で。
「おそらく泉本さんは堀田君に最初、声をかけたんでしょうね。そうすれば佐々木君に近づけるのを見越して……。堀田君はただ、佐々木君に近づくための踏み台として使われたのよ。泉本さんは堀田君の事なんて友達だと思ってないよ、きっと。酷いと思わない? 信じられないと思わない?」
「ああ、そうだな」
 アッサリと肯定する堀田。少女たちは拍子抜けしながらも理解された事に喜びの声を上げる。
「だよね? そう思うよね!」
「酷くて、信じられなくて、吐き気がしそうなくらいさ……お前らの話を聞いているとな!」
 言葉を、そして怒りを、叩きつけるように堀田は吐き捨てた。浅葱はその声にビクリと体を震わせる。いつもクールで感情を表に出さない彼が、自分の事でそんなに怒るとは浅葱は思っていなかったから。
「お前ら何様のつもりだ? 誰と誰が仲良くなろうが、そんな物は個人の勝手だろうが!」
 罵声と形容するのが一番適切な声。それに少女たちはうっすら涙すら浮かべて反論する。
「な……なんで、そこまで怒るのよぉ……」
「怒るに決まってるだろう!」彼は拳を机に叩きつける。「友達が侮辱されて、どうして怒らないでいられるんだ!」
 浅葱は堀田の事を、それまで勘違いしていた。彼はきっと冷たく彼女たちをあしらい、そして立ち去るとばかり考えていた。浅葱の胸に締め付けるような暖かさが満ちる。誰かが自分のために本気で怒ってくれる。そんな経験は彼女にとって……初めての事だったから。
「なんで? どうして? 堀田君は泉本さんの事なんて、そんなに信じるの?」
「信じるに足りる理由があるからさ……。あいつは俺が苦しい時、傍にいてくれた。別に励ましたりも、慰めたりもあいつはしなかったさ。だけど、あいつはただ傍にいてくれたんだ。たったそれだけの事も、俺にとってはそれだけの価値があったんだよ」
 堀田は一歩踏み出し、少女たちを睨みつける。
「だから俺はあいつを信じる。『俺の事なんか友達だと思っていない』って、もしあいつが言ったとしても俺は信じない。俺は疑わない。俺にとって、人を信じるっていう事は、そういう事だからだ!」
 それはきっと歪んだ信頼の形。もたれかかる体のどこまでが自分で、どこからが相手なのか分からなくなるような。そういった不健全な関係しか、その時の堀田には……作り上げる事ができなかった。
「……ッ!」
 声を上げそうになって、浅葱は必死に堪える。浅葱が彼の言葉に覚えずにはいられなかったもの。それは嬉しさ。心の奥深くから途切れる事がなく涌き出てくるその感情に、浅葱は激しく突き動かされ、そして満ち足りていく。
 どれだけ……そういった馴れ合いが歪んでいるものだとしても、浅葱は構わなかった。互いを必要とし、そして必要とされる。そうした事が自分にもできるなんて……浅葱にはずっと思えないでいたから。それが彼女にもできる事なのだと教えてくれたのは堀田だった。
「……勝手にすれば良いわ、堀田君が……ここまで話が分からない人だとは、思ってなかった」
 少女たちが堀田を罵り、そして立ち去って行く音が聞こえる。それは物質的にも、そして精神的にも、彼女たちと離れて行く音に違いなかった。彼女たちとわたしはきっと、これから先……もっと相容れなくなって行くだろう。浅葱は思う。でも、それで構わなかった。
 誰か一人でも、無条件で自分を信じてくれる人がいるなら。
 座り込んでしまっていた浅葱は腕に力を込める。立ち上がるために。立ち上がり、そして負い目を拭い去り……彼の立つ場所へ近づくために。

「……どうした?」
 堀田の心配そうな声で、浅葱は回想から現実に引き戻される。
「ん……なんでもない。ちょっと、昔の事を思い出してたの」
「昔……? 冗談はよせよ。昔なんて言うほど生きてないだろ。お前なんて時間が止まったみたいにあの頃から変わってないよ」
「それは……身長の事を言ってるのかな?」
 堀田は視線を浅葱の顔から少し下ろすと、真顔で返答した。
「いや、いくら俺でも残酷過ぎて言えない言葉はあるぜ?」
 無言で鞄の角を堀田の頭に振り下ろす浅葱。「痛ぁッ!」浅葱はクスクス笑う。
「なーにしやがるんだ、人が心配して冗談言ってやってんのに」
「分かってるよ」
 てっきり反論が来ると思っていた堀田は、浅葱の言葉に拍子抜けした顔になる。
「ちゃんと分かってるよ。佳宏が冗談を言う時は、わたしを元気づけようとしている時なのは。佳宏の冗談は毒舌過ぎて笑えない時が多いから、きっと人にはあんまり分かってもらえないだろうけど……わたしは分かってるから。それでね、そうやって佳宏の事を分かる事のできる自分が、実はちょっとだけ……自慢なんだ」
 堀田は何も言わなかった。ただ黙って浅葱の髪を指で梳く。
「お前は……いつもストレートに届く言葉を言うよな」
「だって、ちゃんと言葉にしないと伝わらない事なんて一杯あるじゃない。言葉って、人に何かを伝えるために存在してるんだから……だからわたしはキチンと口にするの。伝えたい言葉を」
 向かい合う言葉。浅葱は堀田と同じ目線で言葉を届けようとしていた。「でもね」浅葱は寂しそうに微笑んでみせる。
「伝えられなくて口に出してない言葉……それはきっと、佳宏には届いてないんだろうなぁ……」

「約束を、果たしに来ました」
 家のベルに玄関へ出ると、そこには早枝の姿があった。堀田は歩み出る。
「佐伯は律儀だな。こんな早く調べ物が済むとは思っていなかったよ」
 堀田に名簿を渡しながら、早枝は独り言のように報告を始める。
「それが侑の自殺前の名簿です。私も見ましたけど……彼も、同じ小学校だったんですね」
 名前を口にもしたくないといった口調で早枝は言う。堀田は名簿から顔も上げずに返答する。
「ああ、それは予想通りだから良い」
「え?」不思議そうに問い返す早枝。「予想って……どうして」
「佐伯は知らなくて良い事だ。いやむしろ……自分で気づいて欲しい事かな」
 暗闇の中、街灯に堀田の横顔は無表情に照らされている。
「それよりも、もう一つの情報をくれないかな? 侑の自殺する前に、何か変わった出来事が目撃されていないとおかしいんだけど」
 どうせ何故って聞いても答えてはくれないのだろう。早枝はあきらめのため息を一つつくと、つい先ほど調べてきた事を口にする。
「ええ……ありました。自殺の前日、少年が一人……執拗に彼女に嫌がらせをしていたみたいですね。見ていた人は『きっと殺された人の子供なんじゃないかな……そうじゃなくちゃ、あそこまで執拗に憎む理由が考えられない』って言っていましたけど……」
「そうか……」言って堀田はパタンと名簿を閉じる。「十分だ、分かったよ。侑という少女が何故、自殺を選んだのか。そして誰が佐伯にあんなモノを送りつけてきたのかも……」
「え……」耳を疑うように佐伯は踏み出す。「じゃ、じゃあ!」
 問うように叫ぼうとする早枝の口を、そっと堀田は手のひらで覆う。
「その前に、一つ確認させてくれないか。俺は確かに情報の再構築を済ませ、自分がどうすれば良いのかが分かっている。結果的に佐伯への悪意を軽減する方法を思いついている。だけど、それまでの間に……俺は君を傷つけるだろう、君は憎むだろう。俺はそういう方法でしか歪みを糺せない、そんな人間なんだ。だから確認したい、どんな苦痛を支払ってでも真実を明らかにする覚悟があるか、どうかを」
 早枝はためらわなかった。考えるよりも先に言葉が口をつく。
「望むところですね」
 期待通りの言葉が聞けた……そういう笑いを堀田は浮かべる。
「オーケイ」彼は指を鳴らしてみせる、おどけるように。「じゃあ君を招待するよ。深く絡みつく歪みの中へ。人から理解されづらい歪んだ感情の中へ。その中からでしか把握できない、そんな歪みを……糺すためにね」


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