アルバイトの娘

秋月 ねづ
 僕は恭子ちゃんというアルバイトの女の子に一週間に一度くらい『嫌い』と言われる。僕が作業している倉庫にまでわざわざ言いに来るくらいだから、あながち嫌われているとも思えないのだけど、まあ本人が嫌いと言っているのだから、敢えて詮索はせずに言葉どおり受け止めている。
「ワタシほんと佐久さんのこと嫌いなんです」
「何かサクサンて、お酢みたいじゃないですか?」
 恭子ちゃんは脚立に乗って在庫整理をする僕の下で、一生懸命僕の悪口を言っている。そうやって彼女は休み時間を潰しているのだ。
「ご飯食べたの?」
 僕がチェックリストにバツ印を入れながら聞くと、恭子ちゃんは小さな声で
「食べました」
 と呟く。
「何を?」
 僕は相変わらず棚を見上げながら、彼女を見ずに訊く。
「おにぎりです」
「何個?」
「一つです」
 僕は恭子ちゃんの方を向いてわざと真剣な顔をした。
「そんなんじゃ、大きくなれないぞ」
 僕がそう言うと、恭子ちゃんは顔を赤くして俯いて、それから僕を睨んで、
「大きなお世話です」
 と言って走り去って行った。僕はその後姿を眺めながらため息をついた。

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