マリオコンプレックス

秋月 ねづ
 僕が自分の部屋でスーパーマリオをやっていると、麻里が入って来てベットに腰をかけた。
 麻里は弟の彼女だ。
 中三で彼女なんて生意気だと思うけれど、言わない。
 ヒガんでると思われると嫌だから。
「勇一の部屋は隣。それに今、いないよ」
 僕は画面を見ながら言う。いまは目を離せない。
「知ってる。探したもん」
「じゃあ、帰れば」
 僕はルイージをジャンプさせながら言った。
 僕は普段は女の子に丁寧なんだけど、相手が弟の彼女となると話は違う。
 なんせ僕には彼女がいない。
「嫌」
「そう」
 僕のルイージは死んでしまって、今度はマリオの番。
「何で一人なのに二人用で遊んでるの?」
 僕がワザとマリオを穴に落としたのを見て、麻里が聞く。
「ルイージが好きなんだ」
 僕は答えた。
「馬鹿みたい。暗い」
 麻里が言う。ルイージの番が始る。
「勇一がマリオで、あんたがルイージなんでしょ」
「色が好きなだけだよ」
 麻里はため息をついた。
「暗いわ」
「うるさいな。勇一は多分友達と公園で野球をやってるよ。行ってこいよ」
「嫌よ」
 ルイージは上手く崖を飛び越えていく。
「ねえ」
 麻里が言う。
「キスってした事ある」
「ないよ」
 僕は答えた。
「高校生なのに?」
「関係ないだろ。そんなこと」
「そう?」
「そうだろ?」
「そうかもね」
 麻里は足をブラブラさせてベッドの縁を軽く蹴った。
「ねえ、したいと思う?」
 麻里が聞く。
「何を?」
「キスよ。決まってるじゃない」
「別に」
 僕は答える。良く考えたわけじゃない。
 何となくそう言わなければいけない気がした。
「そう」
 麻里は勢い立ち上がった。
「じゃあね」
 麻里は立ち上がった勢いのままで部屋を出ていって、僕はまた一人になった。
 ルイージが旗に飛びついた。

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