anarchists's column back number
(@n@)
人を(自分も含め)励ますのに使うフレーズがある。
「イチローを見ろよ」
イチローの打率をチェックしてみろ。届いたって四割だ。
あのイチローでさえ、勝負で勝てるのは四割なんだぜ?
凡人のぼくらが、そんなに簡単に上手くいくかよ。

落ち込んだって、損なだけさ。
飯を食え。酒を飲んでもいい。
もちろん付き合うぜ。
ゆっくり風呂につかって。
そしてともかくたっぷり寝てからもう一度方法を考えろよ。
いまはなにを考えても暗いことしか考えられない。
それから考えを実行に移すんだ。

質問です。
今日会社でなにもやることがありませんでした。
すなわち放置。


……クビですか?


元のフレーズはタイ・カップ/KENSEI 020531
未来は、過去への復讐だという。
誰もが、できなかったことに縛られる。
愛されたことのない者は愛されることを求め続ける。
かくいうぼくも、いまだに留学をあきらめていない。いつか実現しようと捨て切れていない。

「人はやり直さなければならないことがあるんだ」
先輩が言っていた。ある心理学者の学説だという。
心残りを胸に抱えたままだと、どうしてもそこで人間の成長が止まってしまう。だから子どものようにわがままを言い、甘えて、泣きじゃくらせる。そんな療法が存在するというのだ。
「もし君が前へ進めないのなら、戻ってやり直すことも必要だよ」

つまり「はじいしゃ」とか「はじるす」とかそういうブツに反応するのはお医者さんゴッコに異常な心残りがあるってことですか?


凩くんとお友だちへ/KENSEI 020530
昨夜、旧友の夢を見た。
私鉄の駅で偶然鉢合わせて、声をかけようとしたら視線を逸らされ、近づいたら背を向けられた。

次々と友人のメールが来ているのが理由かもしれない。就職がどこからか伝わったらしく、しばらく音信のなかった連中からも連絡がある。転職したやつ。まだがんばっているやつ。そんなとき母と彼はどうしているんだろうという話をした。彼は母のお気に入りだった。初めてできた友人らしい友人の彼を、母は迎えるたびに歓待した。ぼくも彼の自由なところに憧れていた。

彼はぼくと一緒に高校を辞めた旧友だ。二人して辞めた理由は「米国に留学するため」。もっともらしい現実逃避の言い訳である。留学は簡単にあきらめた。要は息苦しい場所にいたくなかったのだ。ぼくらは「逃げ」と公言していた。
「逃げて逃げて、アメリカまで逃げ切ってやるよ。日本の教育なんて、バカバカしくてつきあってられない」
彼はぼくより一つ歳上だった。プロのミュージシャンを目指し中学を出るとすぐ修行を始めた。だが自分の限界を悟って一旦学生へ戻り、高校で同じクラスになった。頭の回転が速くて、歳が上なせいだけではなく、鋭いものの見方を持っていた。ぼくらは気があって、放課後遅くまで学校への不満や自分の将来について語り合った。
二人でなら怖いものはなかった。

学校を辞めてからも、折に触れて彼は遊びにやってきた。ぼくはアルバイトを始め、次第に自分の価値観を確立させていったし、話があわないことも多くなってきた。それでも彼は若木未生じゃないが「魂の底ではつながっている」友人だと感じていた。彼も自問自答しながら、通信教育を経て、地方にある音楽大学への進学を決めていた。それから年に一度、会うか会わないかという付き合いになった。

一昨年の冬。唐突に彼から電話があった。
「なんとなくお前の声が聞きたくなってな」
大学院への進学考査を控え、課題の締め切りが近いのだという。部屋にこもって作業をしている合間に電話をかけてきたのだ。
プレッシャーのなかで、もうなにをしても無駄だ、という気分になっているのかもしれない。やることは多すぎて、なにから手をつけていいかわからない。できそうもない。でもやらなければ自分の理想へは届かない。届かないのならいっそすべて投げ出してしまえ……
「精一杯、全力を出し切れよ。それしかないよ」
「なんでみんなそう言うんだ? 俺にはなんでみんなそう言うのかわからないよ」
「全力を出して、これが俺だ、俺のすべてだ、ってぶつけることができれば、後悔しない。だっていまのすべてをぶつけてかなわないなら、仕方ないじゃないか。逆に全力をぶつけることができなければ、いつまでたってもあのとき全力を出していたらどうなったろう。そう思い続けることになるよ」
ぼくはいつだってそう思うことばっかりだ。人生に残るのは後悔ばかりだ。だからこそ、精一杯やれたときのうれしさを知ってる。高校を辞めたことだって『彼と二人じゃなかったら?』そう思い続けているのだ。自分一人の決断なら、と。
「……お前の言うことで、初めてわかった。だからみんなそう言うんだな」
「そうさ。みんなそう思ってるんだ」
あれから電話はない。

まだ連絡をとりあっている、彼を除けば唯一のクラスメイトから、彼が関東に戻ってきていると聞いた。なにをしているのかまでは聞かなかった。それはぼくと彼が会って話すことだ。
ぼくから彼に連絡はとらない。彼が電話してくるのを待っている。なぜって、ぼくは精一杯やった彼からの報告をずっと待っていたし、これからも待っているからだ。

あのころ夕暮れ。自転車で二人乗りしながら話した輝かしい夢は、もう手にすることはできないだろう。大きくて、まぶしい。ただ陽が落ちても、まだ、星ほどには残っているはずだ。
ぼくは星に手を伸ばそうと思っている。遅いけれど、遅すぎることはない。精一杯、背伸びをしようと思っている。

彼はいまも、太陽を見ているのだろうか。


せめて、星ほどには/KENSEI 020529
どんな仕事についたか聞かれるけど説明が、長い。
肩書きで言えばMacオペレーター見習い。いまはひたすら練習の日々。
本当に「仕事」で、響きほど創造の余地はなくて、私服OKと冷暖房完備が救い。印刷用の元データを作成する仕事だ。

どんな練習をしてるのかといえば、広告あるでしょ? たとえばドラッグストアのちらし。ジュースのペットボトルがきれいに切り抜かれて印刷されてる。あれをパソコン上で正確に手早く行う練習。
あと各種DTPアプリケーションの総復習。
先輩の仕上げた仕事を教科書に、同じものを制作していく。

ここのところやってるのが、写真の画像を入れ替える練習。簡単にいうとデザイナーからくるデザインのデータは低解像度(粗い)なので、印刷用の高解像度(細かい)画像に入れ替えてやる。スキャナのプロが撮りなおすのだ。
もちろんレイアウトはすべて決まっているから、写真の大きさや位置、角度を変えて、イメージを再現する。
低解像度の粗い写真の上に、印刷用の写真をもってきて位置を合わせ、微妙に調整する。一致したら粗い写真画像は削除する。その繰り返しだ。目が異様に痛くなってくる仕事だ。

今日は雑誌の画像を入れ替える練習で、容赦なくヌード写真だった。うらやましい? そんなバカな。隣には女子社員も座ってるんですよ。女性にはなるべくエロを回さないんだそうな。まるでセクハラのようにじっくりねっぷりと一日やってましたよ。
乳首の位置があわねーなあー、などと思いながら。

オウン・ビジネス/KENSEI 020528
恋人に「ちょっと話があるんだけど」言われたとき。

緊張する一瞬/KENSEI 020525
いま、新入社員をやっている。
暇だ。
肩書きで言えばMacオペレーター見習い。もちろん戦力になんてならないから、先輩方が以前やった仕事を課題に練習している。予想通りの単調さにあきらめを覚える。お尻が痛い。しかも求められている技術が高い。これが文を書く仕事なら毎日がレベルアップなのだが。
ぼくはどちらかといえば営業向きの資質をしているらしい。ただ喧嘩っ早い営業は人様の迷惑なので、やらないというか、友人がみんなして止めるのだ。

五月の前半は面接を受ける以外、引きこもって「ガンパレード・マーチ」をプレイしていた。初出社の前々日も徹夜で「ガンパレ」。前夜によく眠れるようにだ。しかし緊張でほとんど眠れず、三時間弱の睡眠で出社。いきなり現実に引き戻された。幸い見学がメインでほとんど寝てました。それから毎日自習。楽だけどこんなんでお金をもらっちゃあ悪い気がする。
帰る時間も近づいたころ、手の空いた上司が様子を見にきた。ついでにどこへ回されるのか聞いてみたのだが、経営側としては一年間制作(出力)サイドで仕事の流れを覚えさせ、営業をやらせる腹積もりのようだ。
「三十歳で三十万払うオペレーターだったら、二十歳で二十万のほうがいいじゃない? 本当は二十代前半の経験者がほしかったんだけど、たまたま応募がないところへ君が来たからさ」
「制作が特別向いてるとも思えないし。べつに構わないですよ。お互い利益が出せるところがいいでしょう」
「はじめたからには続けないと、どこに行ってもダメさ」
「それはわかってるつもりなんですけどね」
「でもがんばらないとほら、排除されちゃうから」
「……排除ですか?」
「がんばらないと解雇だよ解雇。だって二ヶ月は試用期間だから。二ヵ月後、言うのつらいだろうなー」
……予告ですか?

「ガンパレ」が染み付いているせいか戦場にいきなり送られるよりはマシだと感じる。ただ人類の命運をかけて「決戦存在HERO」を目指している日々と、薹の立ったオペレーターでは差がありすぎる。
できることなら突っ走りたいのだが、なにをどうしていいのかわからない。「すり足」だけで敵の攻撃をかわし、累計撃破数300を目指していたぼくが。 それくらい燃える対象を求めて、編集者をやりたかった。しかしやりたいことを目指して堂々巡りするのは嫌だったのだ。

仕事は所詮人生の暇つぶし。食べていくため。遊ぶお金がほしい。いろんな理由がある。ぼくはどこか憧れを抱いて、中途半端にやってきた。なにかに一途になりたいと願いながら、なにも一途に打ち込まずに。

「お兄ちゃんは天才になりたかったのね」
妹の言葉を思い出している。

また今夜も眠れそうにない。なにも行き先が描けない。目を閉じても。十代のころからずっとそうだ。不安。このままでいいのか。それとも。胸がさわいで半身を起こす。
ぼくは一歩を踏み出し、踏み出してしまったことでまた苦しんでいる。
「それは人生を楽しんでいないからだ」
しょうたくんなら言うだろう。
でもいまのところは続けるしかない。あっという間だろう。それはわかっている。

面接のとき社長がこう言った。
「若い人はすぐ見切りをつけてしまう。これはダメだ、ってね。最低三年はやってみないと。三年なら取り返しがつく。あ、君は三年やったら……もうつかないな」
三年どころか二ヶ月も危ういんですけど。
ていうか、つかないんですか?

あと問題は週休二日じゃないから、土曜も仕事なんだねこれが。寝ないと〜

絢爛舞踏はできないけれど/KENSEI 020524
後悔を書こう。そう思っている。

友人の与作が住む北海道へ遊びに行ったとき「ぼくの書く小説はみんなにサラダデイズとかBoysBeとか言われてんだよ」と話したことがあった。
そう言うと与作は強く問いかけてきた。
「なんでそんなのばかり書くのさ」
「それは、うん、経験していないからだ。高校行ってないからね。だからそういうのに憧れてるんだ」
どうしようもない後悔が、憧れを作品に昇華させる。
恋愛シミュレーションなんてものはその極みだろう。
「ときめきメモリアル」を企画したクリエーターは、どんな高校生活を送っていたのか。悪寒がする。

その昔「ときメモ」でサッカーの全国大会を制したとき、あまりの虚しさにその場でゲームをやめてしまったことがあった。
虹野さんに祝福されて喜びいっぱいのシーンを、ぼくと同名の主人公が演じている。一方テレビの前のぼくは短パンで夏休み、セガサターンのコントローラーを握っている。ひとり汗をかきながら。ゲームのなかのぼくがモテるのは当たり前だ。黙々と練習を重ねインターハイを制したのだから。
先日「雪」掌編を書いたとき、初めてぼくは短パン姿の自分を見せたのだろう。ならその悔いを余すところなく書いてやろう。そう考えていた。

そんな折、MH5さんから予想外の賛辞をいただく。
>今回のMH5的TOP賞は「7年遅れのクリスマス」ですな♪
>ここで繋がるのかよ!っていう展開がおもしろかった。
この作品は安易さを指摘されがちなので我が不肖の子、といったところなのだが、ぼくの重要な資質なのではないかと考えた。そうだ二つのいいところをあわせればいいんだ!

ということは「7おくれのクリスマス」くらいに構成を考え抜き、「A Drop Of Snow」くらいリアルな振られ話。
……
イヤだよ。そんなの書いたら凹むよ。
記憶の封印を解きたくないよ。書きながら泣くよきっと。

再起不能。

後悔を余すことなく/KENSEI 020523
初めて二次面接まで通った。

先日一次面接を受けた。旅や料理のムック本を作っている編プロで、社長はいかにも曲者といった印象だ。話を先読みされている。チェスや将棋で言うなら、用意した流れが一手で押さえられ、予想外の駒が飛んでくる。必死で対応するがまた一手で押さえられる。
「アンタは結局、まわりにケンカを売ってるばかりだな」
と言われる。
「いいとこなんにもねーじゃねか」
ぼくは王手を詰まれた状態で、なにも反論できなくなっていた。たとえば本屋を辞めたいきさつや、クラスメイトに編集の仕事について聞いたことなども話していた。一方的にぼくの履歴は却下されていく。
「ここからは、おせっかいだけどな。アンタが話を聞いた編集者って、いくつだ?」
だいたい二十代後半の人たちですと答えた。
「そいつらに話を聞くのはやめとけ。そいつらはまだ一人前になってないじゃないか。世の中にはいい情報と悪い情報の二つがある。そんな仕事も満足にできない連中の情報は、悪い情報だ」
ぼくが友人に頼っていると感じたのかもしれない。ただ黙っていられなかった。
「……俺が無理やり聞き出しただけですから。彼らがすすんで話したわけじゃありません。なにもわからない俺にとっては貴重な情報源でした。けど前に進むしかありませんから。ここでこうして面接していただけたのも、彼らのおかげだと思ってますから」
またケンカ売ってしまいました。

ただなぜか二次面接には呼ばれる。説教をもらうだけだったが。
「まず自分のアタマの蠅を追えよ」
この言葉が堪えた。前回のような圧迫感はなく、年長者のアドバイスだった。他人を気にしている暇があったら、まず自分の仕事を覚えることだ。
「話を聞く限り、アンタは利口バカさ。利口バカなヤツが一番始末に悪い。本当に利口なヤツがバカになりきれるのが、すごい。アンタ、バカになれるか?」

わからない、と正直に答えた。
ぼくはバカになれるか?
結局採用の電話はかかってこなかった。

バカになれるか?/KENSEI 020522
あらゆる飲み会の中で最も疲労するシュチュエーションは
「彼氏持ちのいい女とサシで飲む」時だろう。
もちろんその疲労は完全に精神的なものだ。

俺は性格的に酒を飲むときは気合を入れる。
サシ飲みならば、相手を楽しませて自分も楽しむことに全力を尽くす。
相手の話を誘って聞き、冗談を言い、笑わせる。

そして、相手がその時間を楽しんでくれてまた俺と「飲みたい」と言ってくれるのが、俺にとっては最大の喜びであり賛辞なのだ。
それは相手が男性であっても女性であっても変わりは無い。

ただ残念なことに俺が男である以上、女性と向かい合う時は、自分の魅力を感じて欲しいと願ってしまう。
相手が俺のことをステキだと思ってくれたならと思う。
それゆえに一層、俺は相手の笑顔を見たいと思うのだ。

教訓に一つ、ある昔話をしよう。
昔といってもそれほどじゃない。

あるところに「彼氏持ちの女」がいました。
すこぶるイイ女で頭も良いい。
そして道化がいました。
2人は酒を飲みながら話し合い、道化は冗談を言って女は数え切れないほどの笑いました。
最後に道化は女に「彼氏」の話を持ちかけました。
女は微笑みました。
それはその日彼女の浮かべた笑みの中で最も美しい笑みでした。
道化は思いました。
「地球が滅びてしまえばいい」


多分村上龍だと思ったけど、いいことを言ってた。
「いいSEXをしてない奴らが戦争をしたがる」

俺のことだ。

幸せについて本気出して考えてみた。/秋月ねづ 020521
先日も一件面接に行ってきた。編集の仕事だが、先方は独立したばかりの人で、雇用も労災も入っていない。職安の人に電話してもらうと今すぐ来れるかということだった。履歴書も用意してないしスーツでもなかったが(士道不覚悟)、人物本位ということで行ってみる。
古いマンションの一室に入ったとたんアダルトビデオの山。
なにをやっているのか聞いてみると、出してくれたのが男性なら誰でも世話になっている本。アダルトビデオ紹介のページ。画面をキャプチャして、写真やライターの書いた文をレイアウトするのだ。
加えてグラビアページもやっている。AV嬢の写真を指して、
「まあ仕事は仕事だから。アナタが学校で習ってきたことの、画像の内容がエロくなっただけだから」
内容が問題です。
「……実は書籍編集をやってみたいんですが」
と切り出してみると、
「やってるよ」
と出してくれたのが「盗撮100%」という見出し。
100%ですか?

短期の契約なのだが、仕事は見習いとして覚えられるし、コネも作れるよ、と言われる。たしかに修行と割り切れば面白い職場かも。
なによりも自分自身とのギャップが面白くて笑う今宵でした。

エロ100%/KENSEI 020520
どうして面接に行ってこっちが愚痴をこぼされなくてはならないんだ?
「編集」の検索結果で表示された会社に行ってきたのだが、よくよく業務内容をたずねてみるとデータベースの作成やペラ物(ちらし)の出力データ作成・データ変換などを行う印刷屋さんらしい。いわゆる文字組版の分野だ。「編集」と書いておくと人が来るから、というのはどこでも聞くことである。
話を聞けば聞くほど望んでいる人材は有能で、それこそベンチャーを興せそうなほどだ。企画を持っていて、販路を切り開けるアイディアがあり、たとえばネットの知識が豊富。こういうことできないかなーと思ったら実現してくれる人。インターネットでやりたいことを聞いたが、ASPが組めてCGIの知識がないと無理そう。それを月給20〜30万で雇いたいとおっしゃるか?
外注に任せていた仕事を内製化したい。大手に食い込みたい。このままいけばもう潰れる。そこを救ってくれる人材はいないかと探している。
企業戦士YAMAZAKIですか?
技術はあると自負してたから、たしかにYAMAZAKIが来てくれればいいのかもしれないけど……

なぜ「じゃあ自分がそうなってやろう」と思わないのか。
その社長さんはもう六十代のようなので無理だと自分では思うのかもしれない。ただ新人を育てる余裕はないという。
じゃあどこからそんな人が現れるんだろう。
目指すわけでも、育てるわけでもなく、待つだけで現れてくれるといま日本全体が思っているならば、不況が続くのは当たり前だ。

(後日、ソフトウェアは税額控除の対称になっていないことを知る。IT投資減税は当分実現しないと考えられるので、中小企業の生き残りはますます厳しいだろう。付け加えれば、前述した程度の発想はどこの企業も持っている)

YAMAZAKIを待ちながら/KENSEI 020518
人は雨粒のようなものだ。
昔感じたことがあった。
生まれたときは唯一の存在で、流れ、ひとつになり、やがて海へと注ぐうちにうずもれてしまう。
哀しいことだ、と。

中学のクラスメイトの話をしよう。
明るくて人気者。野球部のキャプテンで生徒会長をやっていた。高校へ行っても主将をやり、甲子園に春の選抜で出場した。ぼくはブラウン管越し打席を見た。
大学へ行っても野球をしたが、ドラフトに名はのぼらなかったし、紙面に名前が載ることもなかった。卒業し母校の高校でコーチになったと聞いて、ふとそんなことを考えたのだ。才能や存在というものは相対的にかき消されてしまう。

カズの話をしよう。
サッカー選手の三浦和良だ。カズはブラジルに渡ったとき、三つの夢を抱いていたという。
サッカーでプロになる。一億円プレーヤーになる。そしてワールドカップに出場する。ワールドカップ出場だけがかなえていない夢だそうだ。
カズは最近こんなコメントを出した。
「いよいよW杯は目前だ。W杯はサッカーの世界の頂点。だけど、それが『すべて』ではないと今は思う。たとえW杯で僕の姿をみんなに見せられなくても、サッカーは続く。僕の人生も続く」

クラスメイトとは高校のころ一度会ったきりで、もう十年以上顔をあわせていない計算になる。でもきっと持ち前の明るさでいいコーチになっているだろう。もちろん悩むことや傷つくことはあったとしても。やがて再会することがあったなら「あいかわらず楽しんでるかい?」と声をかけるつもりだ。

雨粒は海の中を旅する。
ちっぽけな存在が押し合いへし合い、もまれ流されていく。当たり前の幸せを求めながら。
編集者になれなかろうが、作家になれなかろうが、ぼくの人生も続いていく。
そんなに悪いことじゃないかもしれない。そう感じ始めている。

海のなかへ /KENSEI 020516
「俺は人間が嫌いな訳じゃないんだ。その証拠に、人類がもっと減って、絶滅危惧種に指定されたら、俺が募金活動をして保護してやるよ」
 と僕は言って、トランク爆弾を公園に置いた。こうやって置けば浮浪者が少なくとも1人は吹っ飛ぶだろう。
「付き合ってくれてありがと。さあ、今日の仕事は終わりだ。酒を飲みに行こうぜ」
 僕はそう言って、繁華街に向かって歩き始めた。
「いや、特に浮浪者を狙ってる訳じゃないんだ。地道な活動って奴さ。ボランティアの空き缶拾いと同じ。
 人類は世界に六十億いるけど、一日に1人ずつ片付けていけば、少しはゴミが減るってもんだろ? 俺のやり方ってやつさ」
「ほら見ろよ。商店街は人で一杯だ。これっておかしいだろ? 君は寒気がしないかい? 俺は鳥肌が立つんだ。例えば、道に黒いものが落ちてて、良く見ると、小さい小さい黒蟻がビッシリたかったクッキーだった時と同じ気持ちになるよ。何ていったって数が多すぎるのは不自然で嫌悪感があるもん」
 僕らは人ごみを押しのけて歩き、居酒屋に向かう。狭い階段を上がり小さな店に入る。この店は穴場であまり人が入らないのだ。僕らはテーブルについて、 僕は軽く伸びをする。
「変な気持ちだよ。空の下よりも小さな店の中のほうが、開放感があるんだから」
 僕は生ビールを注文して、オシボリで手を拭く。
「人を殺す気持ちっていうのを君はさっき聞いたね? 僕が人を殺すのに感情なんて何もないんだよ。そこには喜びも悲しみも何も無い。いや、むしろ両方あると言うべきなのかもしれない。人間は不完全だからね。それゆえに特別な感情なんて持ってないと僕は言いたい。そもそも殺す時に何らかの感情が発生するのは、対象に個人的な思い入れがあるってことなんだ。そして僕は人類全体に思い入れが無い。今はね」
 僕はため息を吐く。
「人間の良心は当てにならない。
 人は鶏を殺すのを見て残酷だと思う。鳥が鳴き叫んだり、毛をむしったり、血が出たりするのを見てそう思うんだろうね。でも文句は言わない。自分達だって鶏を食べるからね。鶏を殺さずに食べるのは不可能だ。まあ、食べない人は文句を言うけどね。鯨なんかそうだよね。
 猫を殺すのはどうだろう? これは日本では結構酷いことだよね。猫を殺す必要なんてない。この場合は食べないって意味だけど。あと、愛玩動物だし、可愛いとかいうイメージも手伝ってる。
 結局のところ、動物を殺す、殺さないっていうことの是非は自分が食べるか食べないかに起因してるような気がする。それってなんだか笑っちゃわないか? 生きていかなきゃいけないんだから仕方が無いとか、感謝して食べようとか。
 動物によって殺してもいい動物。殺しちゃいけない動物。そういう線引きをしてるのは結局人間なんだよ。
 だからと言って、勝手だとか僕は言わないよ。そもそも動物なんて勝手なもんなんだ。だから、僕は僕なりの線を引かせてもらおうって思うんだ」
 僕らは運ばれてきたビールで乾杯した。僕は一口飲んだ。
「結局のところ、僕はこの地球を愛してるんだと思う。笑っちゃうけどね。昔、ドラえもんの映画で見たみたく宇宙船地球号の一員たる誇りがあるんだよ。僕には。
 僕はこの地球という大きな樹木を剪定したいんだ。茂りすぎた枝を落として、全体により栄養を与えるために。自然淘汰されるには、あまりにもずる賢くなってしまった人類を減らすのはもう自浄作用しかないように僕は思うんだよ」  僕がそう言った時、僕の肩に手が置かれた。見上げるとやたらとがたいのいいスーツ姿の男が僕を見下ろしている。僕は頷いた。
「今日はもうお開きだ」
 僕はそう言った。
「十五人。今日のが成功してれば十六人か。そして僕自身で十七人」
 僕は立ち上がりながらそう呟いた。
「ねえ君。一人の人間が何かを成し遂げるのは難しいねえ」

宇宙船地球号 /秋月ねづ 020513
ぼくは意外と無精者で、爪やヒゲを伸ばしっぱなしにするところがある。出かけるときはヒゲくらい剃るが、爪は案外気がつかずにかなり伸びているときがある。

十代のころコンビニでアルバイトしていた。いわゆる「盛り場」にあるコンビニでお客さんも様々だったが、ある日おつりを手渡した手を男の常連さんにつかまれた。驚くぼくにまじめな顔で、
「爪伸びてるね。爪を切るのは女の子に対する最低限のエチケットだぜ?」
「へ?」
……小僧をつかまえてなにを伝授しようとしているのでしょうか。

いまはわかる。けど爪はコンタクトレンズのせいでまめに切っている。
エチケットのためには未だに切っていない。残念なことだ。

十年後2/KENSEI 020510
脇役が好きだった。
とくに主人公の友人で、ヒロインに振られてしまう役。
最後はやはり主人公に振られた女の子とくっついてしまう。
誰もが幸せのカタチに滑り込んでいく。そんな脇役たちのハッピーエンドがいつも好きだった。

いまは読むたびにひどく虚しい気分になる。
だってそんな都合のいい幸せは転がっていないからだ。

予定調和と虚しさ/KENSEI 020508
ぼくの友人が自律神経失調症になって20キロ痩せたのだが、原因は10代の女の子を好きになったことだった。
友人はもう30の大台に乗っていて、浪人生活を12浪も続けるというマンガのキャラみたいな設定。性格は温厚で非常に他人に気を使うタイプ。その反面東大を本気で目差せるくらい頭が良いせいか、自分の計算だけで完結してしまうようなところがある。
先日電話で飲みに誘ったら都合があわなかった。ひたすら謝っている。理由はまた今度会ったときに直接、と。
共通の友人から飲みの席で、どうやら上手くいったらしいと聞かされる。その日はデートだったのだ。相手が高校生のころから遊んでいて、彼女が大学生になったことで正式に告白したらしい。うらやましい話だ。

ただ問題は彼が結局今年も大学生になってないこと。
そしてどうやら19歳でも彼にとっては新ストライクゾーン採用らしいということだ。

ジュンアイ/KENSEI 020507
異性の知人から誘われて、行ったら宗教の勧誘だったというのはよくあることなのだろうか。
彼女はグループの一人で、二人きりで行動したことはなかった。たまたま遊ぼうという話になったのだが、もしかしたらずっと機会を窺われていたのかもしれない。女の子の親しい友人をつくる、貴重な機会と感じていただけに残念だ。彼女が純粋にぼくの幸福を思い遣ってくれているのはわかっていた。だから困る。二時間ほどにこやかに話を聞いて帰ってきた。ただもう二人きりで、という選択肢はないだろう。

彼女と話をしていて改めて感じたのは……
あくまでモラルは個人的なものである、ということ。
そのために宗教が必要なのだ。国家でもいい。

モラルが環境や文化・文明に影響されることはある。しかしモラルはあくまで個人が持つ人格の一部でしかない。優しさや聡明さと同じである。だからいつの時代もモラルは状況によって脆くも崩れる。独りで保つのは困難だ。
宗教の役割はモラルを支えることに、価値や喜びを還元してくれることなのではないだろうか。なにか正しいことをしたいと希望する人間の、核となり背景となるのだ。思想的な骨組みを与え肯定する。組織として、たとえば人の役に立ちたいと願う人にボランティアとしての場を与える。そして賞賛する。
宗教があるからモラルが生まれるのではなく、モラルを持つ者が宗教によって保護されるのである。だからといって宗教家(指導者)がモラリストである必然性は無いのだが。
好敵手坊やも名言を吐いた。
「お前がそうやって信号を守ったからって、よくやったな、エライって小泉くんが仕事を持ってきてくれるわけじゃねーだろ?」
信仰を甘受すれば小さな善意の積み重ねにも意義は出てくる。宗教的な階梯を昇ることを意味するからだ。もし生まれた家庭に信仰があったなら階梯を意識するのは自然な行為だろう。おそらく精神的な根となり幹となり人生を形成しているに違いない。だが、無宗教の家庭に育った。接ぎ木をするのはきっかけが必要なのだ。幸運なことにそこまで自分を追い詰める事件は訪れていない。

偶然判明したのだが、同じようにグループの中の友人が誘われていた。
ぼくは彼が彼女に惚れてるのを知っていた。結局相手にされないで友人として振舞っているのだが、最近同じように誘われたらしい。シチュエーションを聞いた結果、感づいて断ったという。
「醒めたっていうか、すーっと“引く”ってこんな感じなんだなって思った」
未練を断ち切れて良かったなあ、と思うところもあるが複雑なようだ。
「全部彼女のこと受け止めるぞ、とか決意するじゃない? 片想いだけど、どんなことあっても平気だとか思うじゃない? でもおれってこんなもんだったなのかな、って」
宗教に勧誘されて気持ちが霧消してしまうのは、おかしいのではないか。そこまでの情熱だったのかと自信が揺らぐ。ロマンチストなのだ。
「おれも入信するかなあ? それしかないかな?」
「特殊な事例だろ。みんなそんなもんだって」
想像してみた。包丁男とは戦えたとしても、好きな人から誘われて行った先に新興宗教の勧誘が待ち受けていたら、どんな気分になるんだろう。
「僕たちのアナ・バナナ」という映画がある。エドワード・ノートンが制作・出演している良作だ。カソリックの神父とユダヤ教のラビ、そして幼なじみの女性が主人公。結末は言わないが、アメリカなどでは恋人を選ぶ際に宗教も重大な要素だと感じる。日本はあまり宗教が表に出てこない。
ただ、ルール違反だよな、とは思う。
ぼくはシャレになる。といっても「友人」を誘う時点で、彼女はぼくの「友人」リストから外れているが……彼の気持ちは彼女だってわかっているのだ。
問題なのは純粋に厚意だということ。
彼女はきっと同じ教団の男性と結婚するだろう。
充実した人生かもしれない。

ぼくは延々と説く彼女に微笑む。
「たしかに、君の言うようにぼくは君の宗教に近いことを考えているかもしれない。同時にモラルを持って行動している。ただ自惚れかもしれないけど、もうすこし自分の力でやってみたいんだ」
これは理性信仰だとも感じる。ただ帰依してしまえば、逃げだ。
すがりついて得られる平穏など無意味なのではないか?
傷ついてもがくことが、人間に唯一できることではないのか?
カミュの描く、ギリシア神話のシーシュポスのように。
だから苦しみを引き受けることを望んだのではなかったか?
憔悴だけがぼくという人間を存在させる。

文を書き始めた理由は、思惟を刻んでおこうと思い立ったからだ。世界に触れ軋む心の音を遺しておきたいと願ったからだ。だから書く。
書くことによって世界を明晰にし、自分を理解する。
宗教で救われることはないだろう。だから癒されることもないだろう。
悩み、惑うことだけがただ重なるだろう。

それでも生きていくし、書き続けるだろう。

モラリストの憔悴/KENSEI 020505
「就職しようかな」と言うたびに「サラリーマンに向いてない」
と言われる。

友だちには「お前を雇う会社など無い」と断言される。
バーテンダーはグラスを磨きながら
「お前だけはいつまでもダメ人間で居てくれ」
と懇願口調で言う。

確かに、確かに僕はナマケモノだし
上から命令されるのは大嫌いだけど、
なんにせよ仕事はしないとならないのだ。
やる気は満々。
履歴書も先月買った。まだ封は開けてないけど。
バイトも今月でやめようと思ってる。まだ言い出せないけど。

サラリーマンの資質って何だろう? って
いつも僕は月を見上げて考える。
柿の種のような三日月が僕を静かに見下ろしている。
答えは出ない。

何でみんながみんな僕が「サラリーマンに向いていない」
って言い切るんだろうね?
何でみんながみんな僕に「飲み屋をやりなよ」
って薦めるんだろうね?
みんなは僕の中の何を見てそう言うんだろう?
僕自身にもよく分からないのに。
僕だってサラリーマンをやってみたら、スンゴイかもしれないじゃないか!

向いてないとか言う奴ら見てやがれ! 

PS、煎餅屋さんへ。
西蒲田4丁目に小さな飲食店用貸し店舗があるから、
どんなか見て来て。

ねづ風味就職談義/秋月ねづ 020503
狭くて雑多な飲み屋の五十がらみのマスターは
「飲み屋と役者どっちを選ぶか」
という質問に、斜に被っていたキャップを直して魅力的な笑みで答えた。
「役者で食えればいいけどね」

僕は煙草のヤニで黄ばんだ闘牛のポスターを眺めながら
「今、昭和何年なのだろう?」
と自問していた。
このホッピーを飲み干して外に出れば、昭和30年とかなんじゃないだろうか?
夕焼けが木造平屋の住宅街を赤く青く染めて、
電気屋の前ではプロレス中継に人だかりが出来てるんじゃないだろうか?
否。
今日は平成14年4月20日。いや21日にさっきなった。

隣では、オバサンが大学の授業中抜け出してボーリングに行った話をしている。
それは昭和何年の話ですか?
カウンターの端ではフィリピン人妻を連れた男が僕にしきりにフィリピン旅行を薦める。
「コイツの妹と結婚しないか? 二十歳で処女だ」
フィリピン妻はニッコリと笑う
「フィリピンいいトコよ」
KENが僕の肩を触る。
「コイツの書いた小説を俺が出版するんだ」
ヨコザワ氏は僕らに酒を奢ってくれながら人生の方向修正について語る。
「お前は吉野家の店長が出来るか?」

僕は誰も居ない朝の町を朦朧として歩く。
雨が地面を叩き、僕の髪を濡らす。
シャワーを浴びてそのまま倒れるように寝る。

起きると雨はまだ降っている。
酷く静かな雨の午後。

昨夜見た
DVD「FULL METAL JACKET 1987米」
の海兵隊軍曹が僕の耳元で言う。
「お前は、おフェラ豚か?」
「イエッサー」

結局、僕は「書く人間」なのだ。

幻想おもひで酒場/秋月ねづ 020421
僕の街はヘビースモーカーが多いことで知られている。
二十歳を過ぎた住人の92パーセントが喫煙者であり
その殆どがチェーンスモーカである。
年間天気予報に「曇の日」が多いのは、僕らの吐き出す煙のせいかもしれない。

町の中心部を走る、赤煉瓦の歩道は名物であったが
ある時代を境に、捨てられたフィルターに埋め尽くされて見えなくなった。
踏みしめるとブーツのソールが埋まり(人が歩かない道の端では踝まで埋まる)
子ども達は転んでも膝を擦りむかなくなった。

市長は「ポイ捨て」が美観を損ねるとして条例を出した。

市条例第253号(通称・茶色フィルター禁止条例)
業界の反対を押し切って施行されたこの条例は
ある程度効力を発揮し、それまで茶色と白でマダラだった歩道の
フィルター地層の最上部は白いフィルターで覆われキレイになった。

僕の街の最も大きな悩みはポイ捨てによる「火事」だった。
そこで市長はまた条例を出した。

市条例第342号(通称・木造建築禁止条例)
市長は新築建築物のすべてに木を使うことを禁じ、
僕らの家は徐々に火事に強い鉄筋や煉瓦に変わった。

マスコミや識者の中には
「根本的解決にはならない。本末転倒である」
という意見を持つものもいるが、
市長の支持率は常に92パーセントを保ち
安泰である。

都市条例/秋月ねづ 020420

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