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Explorations

そうだKENに話したいことがあったんだよ。そう、会いたいって言ったのは、その……例の恋愛のことなんだよ。前に会ったの2か月前だったっけ? あれから俺5キロやせてさ。2キロ戻したからいまはそうでもないけど、メシが食えなくなっちゃってさ。部屋にもいたくなくてさ、毎日歩いてたんだよ。今日はこの通りをどこまで歩いてみよう、とかさ。途中で電車下りたりして。1人でお台場にも行ってみたり。都内を探索してたんだよ。
昔から歩くのは好きだったんだけど。

教えたじゃないか。好きだって子。見たよね。店に来て。その子がね……俺と同じ時間帯にシフト入れるようになってさ。月に何回かだけど。
最初はさ、ちょっと重なる時間があっていいなー、って眺めてたんだけど、もちろん向こうだってわかってたんだろうね。でもこれは無理だ、ってあきらめてたんだ。話をしても今ひとつ盛り上がらないし。そしたらさ、なんか通じたんだろうね。今度はあっちから近づいてきてくれたんだよ。うれしかったね。向こうから話しかけてきてくれたりさ。そしたらね……なにもできなくなっちゃったんだよ。

中学生でもないし、女の子と、したことないヤツでもないのにさ。
でもね、動けなくなっちゃうんだよ。「誘ってちょうだい」ってタイミングも2回あったんだ。2回。あれ行きたいな、じゃあ行こうか……もうこの歳だからね、わかるさ。わかってるのに、なにも言えないんだよ。なんとも思ってない女の子ならいくらでも言えるのに……言えないんだよ。
そしたら怖くなってさ。店に行っても彼女がいるんじゃないかって怖いんだよ。出勤もしたくないの。行って働いてる分には苦にならないんだけど、仕事場に入るとき、彼女がいるんじゃないかって、びくびくしてるの。おかしいんだよ。
また彼女の前でなにもできないんじゃないかって、怖くて仕方ないんだよ。
恋の悩みなんかじゃないんだ。きっと、心の奥深いところにあった問題が、出てきたんだと思う。

俺さ、映画見て2時間泣き続けたんだ。映画自体は大したことない話なんだけど、天使になりたい男の子と、それをいじめる父親の話なんだ。父親は才能があるけど、弱くて絵がなかなか描けない。男の子はただやりたいことをやるんだって、そういう父親にも反発してるんだ。父親は要は憎いんだよ。父親は最後癌になって、入院するんだ。少年を抱きしめて、お前はやりたいことをやれ、って言い残して死ぬんだ。自分で少年の胸で窒息死するみたいにね。俺ね、ずっと泣いてたんだ。こんなの初めてだけど、もう泣くぞって決めてさ。でもね、俺は「あの父親になりたい!」って泣いてたんだ。あの少年をいじめる父親になりたいってずっと泣いてたんだよ。

マトリックスも毎日のように観てた。あれは自分を解き放てってメッセージがこめられてる。病気みたいでしょ。30回以上観たよ。部屋に帰ってきてからさ。
マトリックスはね、仏教の思想が強く出てる映画なんだ。だからアメリカ人が見て「あれっ」て感じたんだよ。表向きは西洋の宗教がちりばめられてるけど、予言者もそう言ってる。
答えは、自分自身のなかにある、ってことなんだ。

よくやりたいことをやればいいじゃないか、っていうでしょ。うちの母親なんかもそうで「どうしてやりたいことがわからないの」って聞くんだよ。
「わかれば世話ないよ」って逆に怒ってみたりさ。ずっとやりたいことが見つからなくて。
大学も大したとこ入れなくて、親父は教師だからさ、東京に出て、卒業したのに定職にもつかず、あいつはもう終わった、とか母親に言ってるらしくて。
すごい学歴コンプレックスがあるんだよ俺。たぶん父親のせいなんだ。だからいい大学いってる女の子はもう……
彼女もすごい大学行ってるから、それで無理ってのもあったんだけど。

前から好みのタイプってのはあってさ、でも必ず1番目に好きな子を選べないんだよ。タイプじゃない2番目を取っちゃう。あとから“あのときわたしもいいって思ってた”って言われても、ダメなんだよ。
たぶん、幸せになっちゃいけないってのがあったんだ。父親から。たいがいはは親子関係なんだけど、“俺より幸せになるな”って指示が来てるんだよ。
二十代ずっと胸につかえてるものがあって、哲学や心理学の本を読み漁ったけど、結局はそこだと思うんだ。
俺、昔から父親に憎まれてる気がするんだよ。自分より幸せになるなって。
充分に愛されずに育った人はそうなるんだよ。嫉妬するんだ。

毎日店に行くのが怖くて、部屋に帰るのも嫌で。
もう、彼女のことを考えるのはやめようって、決めて。だってあんな毎日怯えて暮らすのはごめんだったから……
それから、あくる日、ラーメン屋に入ったんだ。そこが演歌とか流れてる店でさ。笑うかもしれないけど、演歌っていいこと言ってるんだよ。“稽古不足を幕は待たない、恋はいつでも初舞台”って。「夢芝居」は歌謡曲か。改めて感心してさ。
それでね、「365歩のマーチ」が流れてきたんだ。“人生はワンツーパンチ 汗かきベソかき歩こうよ”。

“あなたのつけた足跡にゃ きれいな花が咲くでしょう”

俺ね、ずっと、自分がどうやったら花を咲かせるだろうって、そればかり考えて探してきた。そうじゃないんだよね。自分が歩いてきたら、そこに花が咲いてるんだよ。

そうしたらずっと街を歩いていたことが、あっけなく「ああ、俺これ好きなんだな」って思えたんだよ。自分の足で歩いて、地図をつなげていって、写真を撮りたいんだ。記録を残していって、一つの作品にしたいんだ。やっと「好きなことをやればいいのに」って母親の言葉が、わかったんだ。
そしたら、2キロ太ったよ。
なんか仕事もさ、ここまできたら好きなことを仕事にしたい、とか考えたけど、もう、やっていくことは決まったから。定職につく。より多く稼げればいいんだ。あとの時間を、自分のやりたいことに費やしたい。

彼女から逃げるためにやってたことなんだけど、自分に気づかせてくれた。好きだけど、うまくいくかわからないけど、彼女は俺にとって忘れれらない人になるよ。
彼女と結婚できるくらいの給料は欲しいかな。

KENも同じだと思うんだ。俺たちが友だちになって、こうして夜中にやってくるのも、そうなんだよ。だから。

みんなきっと見つかる。
好きなことをやればいいんだよ。
030802/KENSEI
この文章はKENSEIによって書かれています。