カレイドスコープ

凩 優司

僕は、いつも正しい。
だから僕は、いつだって一人だ。

『正しくある事を望むなら、
 人は時に他者との断絶を覚悟しなくてはならない』

前に何かの本で読んだ言葉。
陳腐な言葉かも知れないが、
それは確かに一面の真理をついているように感じる。

だって僕はいつも一人だったから。

自分が特別だと気づいたのは、
いったい何時の頃だっただろう。
多分、小学生になった頃だと思う。

小学生の頃、僕は学校に通っていた。
学校に通うのが当然という、
凡庸な価値観をまだ受け入れていた頃だ。

子供の頃から、僕は誰よりも大人だった。
分別をもち、そして広い視線を持っていた。
だから僕は異分子にしかなりえなかった。

周りの人間は馬鹿ばかりだった。
僕の言葉を半分も理解できる者はいなかった。
それどころか僕の言葉を無視し、疎外し、
踏みにじるように、ないがしろにした。

そして僕は孤立していった。
当然の帰結だ。
精神の優位性に格段の差があるならば、
同じように話せる訳がないから。

そう、彼らが僕を見放したのではない。
僕が彼らを見放した、ただそれだけの事だ。

僕は中学に進学し、
そしてますます孤立の度合いを深めていき、
登校の日数は日毎に減っていき……

僕は部屋から出なくなった。

傍から見れば僕の行動は、
いわゆる引きこもりにしか見えないのかも知れない。

でも、それが違う事を僕は知っている。
僕だけが知っている。

中学三年の時、祖母が死んだ。

祖母はいつも優しかった。
僕にいつも優しかった。
だから祖母はいつも正しかった。

祖母だけが何が正しくて、
何が間違っているのか、
キチンと解っていた。

だけど、そんな祖母も間違えた時がある。

祖母が亡くなる数日前の話だ。
彼女は僕を呼ぶと、
僕の手をつかみ、そしてゆっくりと言った。

「優司ちゃん、そろそろ学校に行った方が、
 いいと思うんだけど……」

言いながら祖母は、ずっと僕の目を見つめていた。
何故か、怯えたような瞳で。

僕が怒るとでも思ったのだろうか。
それはあまりにも僕の事を、
理解していない考えだと僕は腹を立てずにはいられなかった。

そして祖母は数日後に亡くなった。
もちろん僕は、その原因なんて知りはしない。

そして僕は祖母の遺言を叶える為に、
再び学校に通う事を心の中で約束した。
僕だってなけなしの良心が痛む時くらいはある。

久しぶりに学校へと足を伸ばした僕に、
誰も話し掛けようとはしなかった。
まるで腫れ物にさわるかのように、
みな遠くから僕の事を見ていた。

別にそれで良かった。
僕だって、奴らとは口をききたくもない。

でも、そんな中、
一人だけ僕に話しかける女の子がいた。

腐りきったクラスの中で、
彼女だけが見る目を持っていた。

だけど、彼女はある日、
僕にこんな事を言ってきた。

「瀧澤君の意見って、まるで万華鏡みたいだね」

「……それは、どういう意味だ?」

「だってなんか、口を開くたびに、
 言う事がコロコロと変わるから……」

僕は何も答えなかった。
これ以上、何を言っても、
彼女相手では無駄な事にしか思えなかった。

でも、それで傷ついたりなんかはしなかった。
僕は前から彼女の事を、
心底、馬鹿だと思っていたから。
期待なんて、何一つしてはいなかったから。

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